「四畳半タイムマシーンブルース」を読ませていただいて

著者:森見 登美彦
原案:上田 誠
出版:角川文庫
燈火の感想
先ずは率直な感想から。
登場人物にとても魅かれる作品です。それぞれが個性豊かなのですが、作中での主張バランスが良いので、主人公やキーマンが薄れることも無い。ヒロインの描写が少ないのに、その魅力をしっかりと感じさせてくれるのはテクニックなのだろうか。
また、他の作品では少ない印象なのですが、主人公に名前が付いていません。「私」「貴君」「先輩」様々な呼ばれ方をするものの、詳細に書かれていない。書き辛くないのだろうかと思うのだけれど、読み手としては違和感が無い。かといって、自分を投影して読み進める作品でもない。そこがまた面白いです。
少し物語に触れておくと、映画サークルに入っている大学生たちを描いた物語です。前作の四畳半神話体系に登場する面々が出てくるのですが、続きのお話では無いです。けれど、四畳半神話体系で出てくる一話の一節として読んでも面白いのではないかと思います。前作を読んでいない人は、是非読んでみて下さい。
強烈なキャラクターの「小津」が「私」を場をかき乱していくのですが、最終的にはスッキリします。伏線の巡らされた作品が好きな人であれば、是非読んで欲しい。始めから最後まで巧みに用意されていて、それでいて回収も綺麗で心地良いですよ。
きっと読み始めると、なんだか奇妙な会話が始まることに気づくでしょう。それでも流れで読み進めてしまうのでは無いでしょうか。この様な体験は実際にも良くあることです。なんだか噛み合っていない気がするのだけれど、その場は取り繕われてしまう。その展開が面白い。
ちなみに、ここではネタバレしないので安心して欲しいです。ただ読み終えた時に、燈火が言っていた意味も理解していただけるでしょう。