「怪物」を読ませていただいて


著者:佐野 晶
監督:堤枝 裕和
脚本:坂本 裕二
出版:宝島社文庫

燈火の感想

先ずは率直な感想から。
少し人間不信になりうる作品です。この人間不信とは他者を責める意図ではなく、本当に相手を理解できているだろうかという、自分の考えに対するものです。この視点は燈火の作品でも表現したいと思っているもので、目の前の現実から導き出した答えが、必ずしも真実では無いと教えてくれます。

作品は登場人物ごとに視点を描く大きく3部構成となっている。この構成方法は、ネタバレになる恐れもあったが、手法としては珍しいものでもなく、それよりも「最後まで読んで欲しい」という燈火なりの想いを込めて、書き出させていただきました。読み手によっては、最初の母親の章で読む気を失う可能性があるからです。

作品の前半は、読んでいて虫唾が悪いと感じるのでないでしょうか。そこで読み止めてしまうと、本作を誤解したまま終ってしまうのだろうと思います。作中に出てくる伏線にあたるものは、どちらかというと真実との比較といった意味合いを持っているので、最期まで読み進めると、その面白さに気が付けるでしょう。

真実はシンプルです。けれど人の心は複雑で曖昧です。もし時間を遡れるとして、同じ動機があったとしても、その時に同じ行動をするかは分かりません。行動原理が曖昧で不確実なものだというのに、現実に起きた結果だけを見ても、真実に辿り着けるとは限らない。それを見事に表現されています。

燈火は映画を観ていませんが、恐らく観ません。これは小説として思考の中に収めておきたい、そんな作品でした。