「正欲」を読ませていただいて

著者:浅井 リョウ
出版:新潮社

燈火の感想

先ずは率直な感想から。
この作品を読むと、人への理解が深まると思います。自分の事であったり、他人の事であったり、それぞれの価値観と言うか、このタイトルは的を得ていて素晴らしいです。感慨深い作品でした。

私は常識と言うものが嫌いだと、常々言い続けています。誰が創ったかも知れない縛りを、あたかも正論としているのが気持ち悪いからです。それがこの作品にも綴られています。多数決を取った時に、少数派になる人達は異端なのでしょうか。そんな事を多数派が決めつけて良いのでしょうか。そういう事を考えさせてくれる。私がとても好きな題材の一つです。

あとがきを書かれていた、東畑さんの解説も面白かったですね。あとがきの無い作品も多いですが、私はこのあとがきが好きで、どの作品でも最後まで読み切ります。人それぞれの価値観と言うのは、簡単に答えを出して良いものでもないし、もしそれがこの物語でも語られている明日生きる事に対して、脅威になるもので有れば、抑制も必要になるのでしょう。けれども、少数派の一人として数えられるであろう私からすると、理解しなくても良いから放っておいてくれという気持ちは、共感に値します。

どうも人は、同じである事を求め過ぎる傾向が有る様に感じます。けれども生まれながらにして、同じ人は一人もいない。その真実をもう少しだけ、正しく理解できる様になったら、世の中はもう少しだけ生きやすい世界になるのかも知れません。

私は、常識に固執した多数派正論説の考え方を偏見と呼んでいますが、その偏見が当たり前でなくなる様な、そんな進化が人にもたされたら、世界は今よりもずっと平和になるのでしょうね。