「さえずちの眼」を読ませていただいて

著者:澤村 伊智
出版:角川ホラー文庫

燈火の感想

先ずは率直な感想から。
三章それぞれ、面白い作品でした。和製ホラーは神秘的な描写が多くて、私は正と悪の概念が無いことが特徴だと思っています。特に神話的な要素を用いる場合、神様は必ずしも正の立場とは言えません。もっと純粋で感情的で艶めかしい。何が悪い事かも分からない子供の様な、野性的な何かです。それが面白く描かれていました。

ホラー作品に対して、面白いという表現が適切かは分かりませんが、怖さのある面白さと言うか、ホラー作品を読む人達は、同じ様な感覚を求めて読まれていたりするのではないでしょうか。この作品は一章と三章に繋がりが有るのですが、そこは読んでみて下さい。個人的に、こういった伏線も好きです。

登場人物は、澤村さんの他の作品にも登場するのでしょうか。他の作品も読んでみたいと思いましたのが、小説と言うのは、そういう楽しみも有るんですよね。違う作品で登場したり、登場はするのだけれど、まったく違う人物になっていたり、思い入れがあると、そういう配役をしたくなる気持ちは、私にも良く分かります。

この作品を呼んでも分かりますが、本当のホラーって得体の知れない何かでは無くて、身近にいる同じ人間だったりするんですよね。何気ない日常に入り込み、欲望のまま恐怖に陥れる怪異も有れば、現実の中で直接的に恐怖に陥れる人間もいます。

ホラー作品を読むと、私が怖いと思うのは、いつも人間の方だったりしますね。この作品を読まれる方は、そんな描写にも注目して読んでみて下さいね。